日々のつれづれ

大切なこともそうじゃないことも、ゴッチャマゼ

手紙は憶えている(原題: Remember)

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「手紙は憶えている」

ゼヴ(クリストファー・プラマー)はアメリカの介護施設で暮らしており、最愛の妻ルースが亡くなったことを忘れてしまうくらい、認知症が進行していました。
ルースの死後7日目、ゼヴは友人のマックスから1通の手紙を託されます。
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彼らはアウシュビッツ収容所の生還者で大切な家族をナチスに殺されており、「ルースが亡くなったら私たちの家族の復讐を遂げる」という誓いを立てていたのです。

体が弱いマックスに代わり、ゼヴは2人の復讐を決行します。
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認知症を患い、目が覚めると既に亡くなっているルースを探し求めてしまうゼヴのため、手紙の冒頭にはまずルースが亡くなっていること、ゼヴは認知症を患っていることが書かれています。
そして2人の家族を殺したナチスの兵士、オットー・ヴァリッシュについて。
オットー・ヴァリッシュはアメリカに渡る際に"ルディ・コランダー"という偽名を使っており、ルディ・コランダーと名乗る人物は4人にまで絞り込まれていました。

拳銃の入手方法、宿泊先やタクシーの手配などはすべてマックスが整えており、ゼヴは手紙に沿って4人の「ルディ・コランダー」を探します。

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1人目のルディ・コランダーはナチスでしたが配属されたのは北アフリカだったので、自分達には関りがありませんでした。

2人目はユダヤではなく同性愛者であることを理由にアウシュビッツに収容されており、ゼヴと同じくナチスによる被害者でした。

3人目はすでに亡くなっていたので、その息子であるジョン・コランダーに父の友人であると嘘をつき、家の中に入ります。
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田舎暮らしで人と語り合うことがほとんどなかったジョンは、父の友人は自分の友人だからと、ゼヴに父の遺品と思い出を自慢げに語ります。

それを聞いているゼヴの表情は強張ります。
ナチスの話を自慢げに語るジョンに、私でもちょっと「あれ?」と思います。

結局、彼の話では3人目のルディ・コランダーは開戦時はまだ10歳で、単に軍の調理人として働いていただけでした。
3人目も人違いだったので帰ろうとしますが、偶然に見られた腕の囚人番号から、自身がユダヤ人であることがバレてしまいます。

ナチ思想に傾倒していたジョンは、ユダヤ野郎が自分をだましたのかと怒り狂い、ゼヴを罵倒し、飼い犬をけしかけます。(酷い)
身の危険を感じたゼヴは、襲われたはずみでジョンと彼の飼い犬を撃ち殺してしまいます。その後、怪我をしたゼヴは病院へ搬送されますが、ゼヴは病院から抜け出し、4人目のルディ・コランダーを探します。

そして4人目。
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毎回、浅い眠りから覚めてすぐに亡き妻ルースを呼びますが、手紙を読み、その度に妻の死と認知症の事実を知り、傷ついています。歩く姿も覚束ない、守るべき対象である彼が、よもや復讐を遂げようとしているだなんて、一体だれが想像するでしょうか。

実際、ホテルでの宿泊、洋服の購入、駅で迎えの車を探す時、パスポートが期限切れであったとしても、周りの人が手助けしています。
3人目のコランダーの息子を殺害したときでさえ、彼は弱者でした。(弾は確実に息子を仕留めてたけど)

 

ゼヴが4人目のルディ・コランダーと対峙し、ルディ・コランダーの真実が明らかになる過程で、誰もが守るべき対象であると確信している彼自身の真実も明らかにされます。

そして最後の選択。

 

 

 

 


ゼヴが主人公であり、復讐の遂行者であり、サスペンスの中心人物です。
それを際立たせているものの一つにマックスの静かなる怒り・憎しみ、そして冷徹さがあります。彼はどんな思いでこの作戦を練り、見守っていたのでしょう。被害者は死ぬまでそれを忘れません。

大なり小なり、そうだと思う。

 

 

観終わってから、ワーグナーと狼のくだりが分からなかったので調べてみました。(すみませんね、知識不足で)

「ホロコーストの生存者がワーグナーを好むことはありえない」「音楽は別だよ」

ワーグナーについては4人目のルディ・コランダーの言葉です。
ヒトラーはワーグナー押し(ワグネリアン)だったんですね。
ゼヴはユダヤ人でありアウシュビッツ生還者である記憶を持つ者として「音楽は別だ」と答えたのか。それとも、埋もれてしまった真の記憶の中で、ヒトラーと同じくワーグナーが好きだったのか。・・今思うと、後者でしょうね。

 「ゼヴは自分を“狼”と名づけた。そして“二人とも狼”だと言って」

4人目のルディ・コランダーの言葉です。
セヴの名前の由来はヘブライ語で狼を意味していると、1人目のルディ・コランダーを探しているときに少年に話しています。
アドルフ・ヒトラーの「アドルフ」は古高ドイツ語の "adal(高貴な)" と "wolf(狼)" に語源があるといわれ(wikipediaより)、偽名として "Wolf" を使用していたそうです。お気に入りの単語だったんですね。
2人は逃れるときでもまだ(これからも)ヒトラーと自分たちは同一のものと考えていたんでしょう。

全てを思い出して、最後の選択をすることで、ゼヴが大戦以降どう生きてきたかがわかります。

あぁ、もう一回ちゃんと観よう。
肝心なところで知識がなかったから、わからなかったよ。※私は推理小説の結末を知っていても気にならないタイプです。

 

余談ですが、「二人とも狼」の台詞と、2人目のルディ・コランダーに対する謝罪にも見える涙が気になったけど、穿ち過ぎかなぁ